松山地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 1999年7月07日
原告
佐賀山祥一
被告
菅照昌
右訴訟代理人弁護士
髙井實
主文
一 被告は、大西町に対し、金八七万六四六七円及び内金三四万二七二一円に対する平成九年七月二〇日から、内金五一万八三九六円に対する平成九年八月二一日から、内金一万五三五〇円に対する平成九年一〇月二九日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、大西町に対し、金二九三万五五七〇円及び内金五五万七三四一円に対する平成九年七月二〇日から、内金一〇六万一五三九円に対する同年八月二一日から、内金六万五三〇〇円に対する同年一〇月一一日から、内金四三万五〇九〇円に対する同年一〇月二九日から、内金八一万六三〇〇円に対する同年一二月一四日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 事案の概要
一 本件は、愛媛県越智郡大西町の住民である原告が、町議会議長、議員らの打合せ、懇談の会食代、監査委員の昼食代、懇談の会食代、町長らのタクシーチケット代について公金を支出したことが違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、その各支出命令を発した同町助役の被告に対し、支出相当額の損害賠償及び遅延損害金(訴状送達日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員)の支払を求めた住民訴訟である。
二 前提となる事実(証拠を引用する以外は、当事者間に争いがない。)
1 原告は、愛媛県越智郡大西町の住民である。
2 被告は、平成八年度、大西町助役の地位にあり、同町事務決裁規程により、一件の金額五万円以上三〇万円未満の支出命令の権限を有していた外、運用上、五万円以下の食糧費の支出命令についても決裁権限を有していた(被告本人)。
3 被告は、次の各費用について、総額二九三万五五七〇円の支出命令を発し、大西町をして右金額を支出させた。
(一) 町議会議長、議員らの打合せ、懇談の会食代(実施年月日、歳出費目、支払先、金額、一人当たりの費用、主な出席者等は、別紙1に記載のとおりである。)
(1) 議会費、需要費、食糧費から
合計五五万七三四一円(平成九年(行ウ)第六号事件、以下、事件番号のみで表示する。)
(2) 議会費、需要費、食糧費から
合計一〇六万一五三九円(第九号事件)
(3) 議会費、交際費から
合計一〇万九六五〇円(第一七号事件)
議会費、食糧費から
合計二三万七四四〇円(第一七号事件)
総務費、一般管理費、食糧費から
合計八万八〇〇〇円(第一七号事件)
(二) 監査委員の昼食代、懇談の会食代(実施年月日、歳出費目、支払先、金額、一人当たりの費用等は、別紙2に記載のとおりである。)
総務費、監査委員費、食糧費から
合計六万五三〇〇円(第一五号事件)
(三) 町長らのタクシーチケット代(請求書年月日、歳出費目、支払先、金額は、別紙3に記載のとおりである。)
合計八一万六三〇〇円(第一九号事件)
4 原告は、大西町監査委員に対して、被告が発した右各支出命令は違法であるとして、平成九年五月から九月にかけて、それぞれ監査請求を申し立てたところ、3(一)、(三)の各支出については被告の行為に違法不当な点はないとしていずれも棄却され、(二)の支出については監査不能とされたため、本件各訴訟(全五件)を提起するに至った。
5 本件各訴訟の訴状は、第六号事件について平成九年七月一九日、第九号事件について同年八月二〇日、第一五号事件について同年一〇月一〇日、第一七号事件について同月二八日、第一九号事件について同年一二月一三日、それぞれ被告に送達された(本件記録上明らかな事実)。
三 争点及び争点に対する当事者の主張
1 町議会議長、議員らの打合せ、懇談の会食代(別紙1の第六号事件、第九号事件、第一七号事件)についての各支出命令は違法か否か。
(原告の主張)
被告の右各支出命令は、いずれも違法である。すなわち、
(一) 右会食代は、町議会議長、議員らが、打合せ、懇談の名目で内部関係者のみにより専ら慰労、遊興を目的としてなされた私的な会合の費用であるから、私費をもって充てるべきであり、公金から支出することは許されない。
(二) また、これらの費用は、食糧費、交際費から支出されているが、食糧費とは、会議用の茶菓、弁当等に要する費用であるから、料理屋、スナックなどの飲食代金に充当することは許されないし、交際費とは、行政執行のために外部との交際に要する費用であるから、町職員同士による飲食代金に充当することは許されない。従って、これらの観点からも、右各費用について公金支出は許されないというべきである。
(三) 行政推進懇談会のための支出(第九号事件番号7、11)についても、町役場幹部職員とその経験者からなる非公式の懇談会であるから、その費用は私費をもって充てるべきであり、公金から支出することは許されない。
(四) 大西町財務規則では、支出命令書の決裁においては支出原因を明らかにした書類を添付しなければならないと定められ、被告が支出命令を発するに際しては、当事者の氏名、役職等、公金の使途を確認する義務がある。ところが、被告は、当事者の氏名、役職等も確認せず、支出原因も不明なまま、総額の記載がある請求書のみに基づき、右各支出命令を発している。右事実は、被告において、右会合がいずれも私的なものであることを知り、又は容易に知り得たにもかかわらず、故意又は重大な過失により、裁量権の範囲を逸脱ないし濫用して右各支出命令を発したことの証左であって、その違法性は明らかである。
(五) 被告は、右各支出命令が、いずれも町議会議員らと町当局者が大西町の行政運営について意見交換し職務を遂行した際に要した費用に関するものである旨主張するが、飲食の場所が料理屋、スナックなどであり、請求書にカラオケ代が計上されているのも多いことなどに照らせば、議会審議で持ち越された複雑な案件について議論が行われていたとは考えられず、被告の主張する懇談内容は名目にすぎないというべきである。
(被告の主張)
被告の右各支出命令は、いずれも違法不当なものではない。すなわち、
(一) 右各支出命令は、いずれも町議会議員らと町当局者が大西町の行政運営について意見交換し職務を遂行した際の会食代に関するものであり、町議会において決議された予算の支出目的に従ったものであって、特に、食糧費からの支出は、従来から慣例的に同様の使われ方をしていたもので、これまで問題とされたこともなかった。
(二) また、公費を伴う町議会議員や町担当職員らの慰労が全く許されないものではなく、会合の際に適度の飲酒があっても、食糧費等の予算の趣旨に反するものでもない。右各支出命令は、町議会議員らと町担当職員との打合せ、懇談のための会食代であり、金額的にも、いずれも一人当たり九〇〇〇円以下であって、社会儀礼上許される範囲内というべきである。
(三) 原告は、右会合がいずれも慰労、遊興を目的とした私的なものであると主張するが、大西町においては、当時、町議会と町当局との関係が必ずしも円滑ではなく、議会対策に腐心していた実情にあった。そのため、両者の間で打合せや懇談の会合を持つ必要があったものであり、これらの会合に伴う飲食費の公金支出を全て違法とするのは、余りに狭隘な考えであるというべきである。
(四) 右各支出命令にかかる別紙1に記載の会合の趣旨、目的は、以下のとおりであって、町議会議員ら同士あるいは議員らと町当局者との意志の疎通を図ることにより町政及び町議会の円滑な運営に資することを目的としており、そのための公金支出は、いずれも正当なものである。
(1) 第六号事件
① 番号1(県第一回議員研修のための懇談)
年二回開催される愛媛県町村議長会主催の議員研修会に参加した町議会議員らが、研修会終了後、研修の結果を踏まえ、その反省と慰労を兼ね、町理事者を交えて懇談し、町議会議員と町理事者の共通認識の醸成を図ることにより研修成果を上げた。
② 番号2(産業建設委員会終了後の懇談、番号4の二次会)
産業建設委員会所属の町議会議員七名と町担当職員が、同委員会終了後、委員会の反省と懇談をした。その結果、議員と町当局者で意見の合致を見ないまま審議が十分に煮詰められなかった排水設備工事指定等に関する案件について相互の理解が得られた。
③ 番号3(総務委員会終了後の懇談)
前年に決算認定を否決された経過があり、町議会議員と町当局者との意志疎通を図る必要があったところ、審議が長引き、総務委員会所属の町議会議員七名と町担当職員が、同委員会終了後、委員会の反省と夕食を兼ねて懇談した。その際、大西町が検討している工業団地、住宅団地について意見を聴取した。
④ 番号4(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会所属の町議会議員七名と担当職員で、委員会終了後、委員会の反省と懇談をして、議員と町当局者で意見の合致を見ないまま審議が十分に煮詰められなかった九王農業集落排水事業の工事変更について協議し、相互の理解が得られた。
⑤ 番号5(越智郡議会議員研修のための懇談、第九号事件番号15の二次会)
年一回実施される越智郡町村議長会主催の議員研修会が伯方町で行われたが、右研修終了後、大西町議会議長が越智郡町村議長会の会長をしていたことから、翌年の研修内容等について、議長と議員が話合いをした。
⑥ 番号6(総務委員会終了後の懇談、第九号事件番号16の二次会)
総務委員会終了後、今後の決算認定の審議を有効に進めるため、審議の方法、審議の参考資料等について、同委員会所属の町議会議員と町担当職員とが意見交換を行い、決算認定の審査の順序や審査方法等について検討した。
(2) 第九号事件
① 番号1(藤山審議会終了後の懇談)
藤山健康文化公園建設推進特別委員会の終了後、同委員会で当日議題となった什器備品を使用しての企画展示や運営について意見交換を行った。
② 番号2(議員研修会終了後の懇談)
年二回実施される愛媛県町村議長会主催の議員研修会に参加した町議会議員らが、研修会終了後、町理事者を交えて懇談し、共通認識の醸成を図ることにより研修成果を上げた。
③ 番号3(定例議会終了後の懇談)
第三回定例議会終了後、町議会議長、議員らと町当局者とが、一般質問の運営についての協議を踏まえ、より幅の広い協議をした。
④ 番号4(総務委員会終了後の懇談、第六号事件番号3の二次会)
総務委員会終了後、同委員会所属の町議会議員と町担当職員が、大西町が検討している工業団地、住宅団地について、委員会の反省と夕食を兼ねて懇談し、今後の方針について意見交換をした。
⑤ 番号5(議員研修会終了後の懇談、番号2の二次会)
年二回実施される愛媛県町村議長会主催の研修会終了後、町議会議長、議員らと町当局者とが、他町村から得られた情報を下に、九月議会以降の一般質問の運営について相談した。
⑥ 番号6(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員と町当局者が、工事が遅れ気味であった農業集落排水事業の対応等について協議した。
⑦ 番号7(行政推進懇談会終了後の懇談、番号11の二次会)
行政推進懇談会は、大西町の町長、助役、収入役、教育長の経験者及び元町議会議員を招き、現職の町当局者及び町議会議員らとの間で、町の現状と課題等について意見交換を行い、経験豊富な先輩から意見を聴取しているものである。右懇談会終了後、掘り出した問題点や指摘された事項等について協議を行った。
⑧ 番号8(教育民生委員会終了後の懇談)
教育民生委員会終了後、審議が長引いたため、夕食を兼ねて、同委員会所属の町議会議員と担当職員が懇談し、当時多くの犠牲者を出し話題にもなったO157の問題について、国、県の指導、大西町の対応、問題点、今後の対応等について意見交換した。
⑨ 番号9(「おおにしフェスタ」打合せ、番号13の1の二次会)
大西町の町民祭を発展させて開催されることになった「おおにしフェスタ」についての運営の基本方針、考え方等について、町議会議長と議員が意見交換した。
⑩ 番号10(産業建設委員会終了後の懇談。番号14の二次会)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、工事が遅れ気味であった農業集落排水事業の反省と今後の対応等について意見交換した。
⑪ 番号11(行政推進懇談会)
行政推進懇談会は、広く町政に関する意見を聴取するため、年一回定例的に行われており、大西町の町長、助役、収入役、教育長の経験者及び元町議会議員を招いて、現職の町当局者及び町議会議員らが町の現状と課題等について意見交換を行い、経験豊富な先輩から意見を聴取した。
⑫ 番号12(議長会研修終了後の懇談)
大西町では、毎年、波方町議会及び菊間町議会と議員研修を行っているが、当日開催された町村議会議長会研修の終了後に、右議員研修についての開催時期、研修内容等について、町議会議長が議員から意見を聴取した。
⑬ 番号13の1(「おおにしフェスタ」打合せ)
前記「おおにしフェスタ」に対する町議会の関わり方等について、町議会議長と議員が意見交換した。
⑭ 番号13の2(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、工事が遅れ気味であった農道四号建設事業について、今後の対応等の意見交換をした。
⑮ 番号13の3(移動美術館のための打合せ終了後の懇談)
愛媛県主催の移動美術館を大西町が受け入れることになり、それに対する予算及び町議会の関わり方等について、町議会議長と町担当職員が、意見交換及び打合せをした。
⑯ 番号13の4(議長会終了後の懇談、第一七号事件番号1の二次会)
年六回程度開催される越智郡議長会終了後、他町村の議長九名と意見交換した結果を踏まえ、町議会議長と副議長らが、平成九年度の同郡議長会主催の議員研修等について協議した。
⑰ 番号14(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、建設が進んでいる越智西部広域農道への大西町の集落からのアクセス道について、規格、本数、地元との協議等につき意見交換した。
⑱ 番号15(郡議員研修のための懇談)
毎年一回越智郡の全町村議会議員を対象として開催されている同郡町村議長会主催の議員研修会終了後、その反省と慰労を兼ね、町議会議長、議員らが町理事者らを交えて懇談した。
⑲ 番号16(総務委員会終了後の懇談)
総務委員会終了後、審議が長引いたことから、夕食を兼ねて、同委員会所属の町議会議員と町担当職員が、今後の審議の方法、参考資料等について意見交換を行った。
⑳ 番号17の1(教育民生委員会終了後の懇談)
教育民生委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、当日協議した問題に関連し、老朽化している塵埃処理場の更新問題について、特別委員会を設置することの可否等を協議した。
21) 番号17の2(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、検討の進んでいる住宅団地整備計画の実現性、売却の可能性等について意見交換を行った。
22 番号18(新年会終了後の懇談)
大西町においては、町議会議長、議員、町幹部職員、農業委員、民生委員、教育委員、消防団等と地区総代、農協、漁協、学校、駐在所等の幹部とが、相互に協力や理解を求める場として新年会を開催しているが、そこで出された意見や翌年の新年会の在り方について、意見交換を行った。
23 番号19(大西、波方議員研修会終了後の懇談)
年一回実施している大西町と波方町の合同議員研修会終了後、塵埃及び糞尿処理の施策や施設について意見交換を図り、翌年度の大西町での研修方法等について協議した。
24 番号20(産業建設委員会終了後の懇談)
の懇談をしていたところ、「すなっく沙織」では、他の客が立て込んできて議論に支障があったため、場所を変えてさらに議論した。
25 番号21(産業建設委員会終了後の懇談)
産業建設委員会終了後、同委員会所属の町議会議員らが、漁業関係補償交渉が難航し行き詰まっている海岸整備事業について、補償問題及び審議の進め方等を意見交換した。
26 番号22(本会議終了後の懇談、第一七号事件番号5、6の二次会)
平成九年第一回定例町議会終了後、町議会議長、議員らが、人事案件を最終日に上程する取扱いの長所、短所について協議した。
(3) 第一七号事件
① 番号1(郡議長会時の懇談)
年六回程度開催される越智郡議長会の終了後、各町村の同郡議長会主催の議員研修についての考え方や、翌年の希望等について、町議会議長と議会事務局長が同郡内の議長九名と意見交換した。
② 番号2の1(議会打合せ終了後の懇談)
町議会議長、議員及び議会事務局長が、平成九年第一回定例議会における委員長報告の取扱い及び消費税改正に関連する条例の取扱いについて意見交換した。
③ 番号2の2(議会打合せ終了後の懇談)
越智郡陸地部の町村議会議員全員によるソフトボール大会を毎年一回実施しており、平成九年春の開催が大西町の当番とされたため、町議会議長、議員及び議会事務局長が、その打合せ及び意見交換を行った。
④ 番号2の3(衛生事務組合の打合せ終了後の懇談)
当時、ゴミ処理場のダイオキシンが社会問題となっており、厚生省の省令改正の情報が断続的に入っていたところ、大西町でも塵埃処理場更新及び分別収集問題等のため、廃棄物処理特別委員会を設置していたが、情報不足から審議が進め難い状況にあり、町議会議長、議員及び議会事務局長が、特別委員会の運営等について協議した。
⑤ 番号3(議会打合せ時の懇談)
当時の町長が長期に入院していたため、町議会議長及び副議長が、見舞いを兼ねて、今後の町政について話合いに行き、それに関連して、町長不在の間の議会運営等について打合せをした。
⑥ 番号4(平成八年第四回議員と理事者との定例会終了後の懇談)
大西町では、毎年、町議会議員と町幹部職員が、町役場内において、忘年会を兼ねて会食をしながら、新年度当初予算の編成方針や新規事業等について意見打診と共通認識の醸成を図っているところ、その際のビール、ウーロン茶等の飲食代金である。
⑦ 番号5、6(平成九年第一回議員と理事者との定例会終了後の懇談)
大西町では、毎年、町議会議員と係長以上の町職員が、町役場内において、会食をしながら、定例議会の運用等についての相互理解や町政全般につき意志疎通を図り、共通認識の醸成を図っているところ、その際のビール、ウーロン茶等の飲食代金及び料理代金である。
⑧ 番号7(議会運営委員会終了後の懇談)
町議会議長の諮問機関的な議会運営委員会の終了後、毎年一回行っている第一回定例議会終了後の会食の件や、三月の議会に提出する予算議案等につき、町議会議長、議員らと町当局者が意見交換した。
(五) 以上のとおりであって、右各支出は、いずれも正当であり、被告は、町議会事務局長から説明を受けて、これらの支出命令を発したから、違法不当なものではない。
2 監査委員の昼食代、懇談の会食代(別紙2の第一五号事件)についての各支出命令は違法か否か。
(原告の主張)
被告の右各支出命令は違法である。すなわち、
(一) 右各支出命令は、監査委員の昼食代及び同委員と町職員との懇談の会食代に関するものであるが、町職員に対する条例に基づかない利益の供与は地方自治法に反するものであるうえ、監査委員に対する利益供与は反社会的かつ不公正な行政運営というべきであって、そのために公金を支出することは違法である。
(二) ことに、監査委員と町職員との懇談の会食代については、監査をする立場の職員と監査を受ける立場の職員が税金を使って飲食、懇談するもので、監査の公正さを害するものである。まして、飲酒まですることは、監査職務遂行の妨げともなるものであって、公金支出の必要性はなく、その支出命令は違法というべきである。
(三) しかるに、被告は、故意又は重大な過失により、出席者の役職、氏名等も明らかでなく、請求金額が総額で表示されている請求書のみに基づき、監査委員の昼食代及び懇談の会食代について、裁量権の範囲を逸脱ないし濫用して、違法な支出命令を発して大西町に損害を与えた。
(被告の主張)
被告の右各支出命令に違法不当な点はない。すなわち、
(一) 大西町においては、例月出納検査、決算審査、財政援助団体監査、工事監査、備品監査等、年間監査計画に基づいて計画的な監査が行われている。そして、監査委員による監査が、月一回、午前九時から午後五時までの間、昼食時間を挟んで行われていることから、その際、監査委員一人当たり一〇三〇円の昼食を提供している。右昼食の提供は、回数や金額からしても、社会的に妥当な範囲内のものである。
(二) また、平成八年八月五日、同月七日の二日間に行われた決算審査の終了後、監査委員と監査事務局の町職員とが意見交換のため懇談したが、その際の会食代についても、金額が低額であり、社会的に妥当なものである。
(三) 従って、これらの費用に対する被告の支出命令に、違法不当な点はない。
3 町長らのタクシーチケット代(別紙3の第一九号事件)についての各支出命令は違法か否か。
(原告の主張)
被告の右各支出命令は違法である。すなわち、
(一) 大西町財務規則では支出命令書には支出原因を明らかにした書類を添付しなければならないと定められているところ、これは予算執行の過程で当然に必要な事務処理手続である。ところが、被告は、支出原因を明らかにした書類が添付されておらず、利用者、利用区間等が不明であったのに、帳票等の審査も十分しないまま、故意又は重大な過失により、裁量権の範囲を逸脱ないし濫用して、町長らのタクシーチケット代について、違法な支出命令を発し、大西町に損害を与えた。
(二) 被告は、タクシーチケットは利用者、利用目的等を逐一記録することが困難であるから支出原因を明らかにした書類の添付を要しない旨主張するが、タクシーチケットには乗車日時、料金、乗車人氏名、人数、利用区間を記入することとなっており、利用者、利用目的、料金等、公金支出の原因を記録することは容易であるから、支出原因を明らかにした書類の添付を要するというべきである。
(被告の主張)
被告の右各支出命令に違法不当な点はない。すなわち、
(一) 愛媛県下の多くの町村は、町村長用の公用車を有しているが、大西町は、これを有しておらず、町長らの各種会合への出席等の交通手段としてタクシーを利用している。主な利用は、夜間の酒席の伴う会合への出席、来客及び講師の送迎等であり、交通安全にも配慮した形でタクシーチケットが利用されている。
(二) タクシーチケットを常態的に所持しているのは、町長、助役、収入役、町議会議長、町議会事務局長の五名であり、その他の者が必要とするときには、助役に必要性を説明し、必要枚数を受け取って利用している。
(三) なお、タクシーチケットは、他の公金支出とは異なり、利用の都度、乗車人氏名、利用目的等を逐一記録することが困難であって、大西町財務規則三九条一項但し書を適用して、支出原因を明らかにした書類の添付を要しない扱いにしている。
(四) 以上からして、タクシーチケット代についての支出命令は、違法不当なものではない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 争点に対する判断
一 普通地方公共団体における公金支出の違法性判断について
普通地方公共団体は、その事務を処理するために必要な経費を支弁するものである(地方自治法二三二条一項)から、具体的な公金の支出が普通地方公共団体の事務処理のためと解することができない場合には、当該支出は違法というべきである。また、普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(同法二条一三項)、経費は当該普通地方公共団体の住民の公租公課によって賄われるものであるから、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて支出してはならないとされており(地方財政法四条一項)、事務処理のために必要とされるものであっても、右限度を超える支出については違法と評価され得るものというべきである。もっとも、普通地方公共団体における公金の支出が事務処理のため必要かつ最少の限度を超えるものであるか否かは、予算執行時における社会経済常態、すなわち、地域住民の生活水準や一般的経済観念等に照らし、社会通念に基づいて決定されるべきものであって、その判断は、第一次的には予算執行権限を有する職員の裁量に委ねられているというべきであり、具体的な支出が当該事務の目的、効果と関連せず、又は、社会通念に照らして右目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する職員に与えられた裁量を逸脱ないし濫用してなされたものと認められる場合には違法と評価されるべきであると解される。
そこで、以下、右判断基準に従って、本件における公金支出の違法性について検討を加える。
二 争点1(町議会議長、議員らの打合せ、懇談の会食代(別紙1)の支出命令の違法性)について
1 前記前提となる事実に加え、証拠(乙一の1、2、二の1、2、四の1ないし4、証人桧垣正徳、同鴨川忠弘及び被告)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 大西町では、町議会の定例会や各種委員会等の会議終了後に、町議会議長や議員らが、打合せや懇談と称して、スナック等において飲食し、また、愛媛県や越智郡の議員研修会や議長会終了後に、町議会議長や議員らが、同様に飲食することが慣例化していた。これらの会合には、町理事者を交えることもあったが、大部分は、町議会議長や議員と町議会事務局職員のみが出席していた。
(二) 右のような会合の費用については、出席者の私費をもって充てられることがあったが、大西町の公金が充てられることも多く、一次会にとどまらず、二次会、三次会の費用まで公金が支出されていた(別紙1の第六号事件番号2、5、6、第九号事件番号4、5、7、9、10、13の2、13の4、18、20、22)。
(三) また、大西町では、行政推進懇談会と称して、現職の町幹部、町議会議長、議員らが、年一回、元議員や町幹部経験者らを招き、飲食を伴う懇談会を開催し、町政に関する意見を聴取していたが、その際の会食代や会終了後の懇談会についても公金が支出されていた(別紙1の第九事件番号7、11)。
(四) しかし、平成九年四月ころ以降は、大西町において、定例町議会終了後の懇談会や全員が出席する議員研修会終了後の懇談会を除き、右のような会合の会食代については、各人が費用を負担し合い、公金の支出は行われなくなった。
2 ところで、普通地方公共団体において、地方行政や議会運営を円滑に進めるため、当該団体の職員や議会議員らが、相互に打合せや懇談をすることによって意志疎通を図ることは、事務処理上からも一定の有益性が認められ、その際の会食代を公費から支出することについては、その目的、内容、出席者、回数、場所、金額等に照らし、社会通念上相当と認められる限度において許容されるものと解される。そして、右会食代についての公金支出が違法であるか否かについては、前記一において判示した基準に基づいて判断されるべきであるが、飲食を伴う打合せや懇談については、ともすれば、これらの名目の下に、いわゆる公私混同といわれる、私的な色彩を帯びた遊興や親睦が行われるおそれのあることが否定できず、その費用を公金から支出することについては、社会通念上許される範囲であるか否かにつき慎重な判断が求められるといわなければならない。
そこで、以下、右のような観点から、別紙1の各支出の違法性について個別に検討する。
(一) 定例町議会、各種委員会、審議会等の会議終了後の打合せ、懇談の会食代(第六号事件番号2ないし4、6、第九号事件番号1、3、4、6、8ないし10、13の1ないし3、14、16、17の1及び2、20ないし22、第一七号事件番号2の1ないし3、4ないし7)について
定例町議会や各種委員会、審議会等の会議終了後、町議会議長、議員や町理事者らが、意志疎通を図り、町政を円滑に運営する目的をもって飲食を伴う打合せや懇談をすることは、一概に不当であると評価することはできない。そして、本件における右各会合についてみると、出席者は、町議会議長、副議長、議員や町幹部職員が主であって、一人当たりの費用も八〇〇〇円程度までで、開催頻度も定例議会終了後の懇談会は年二回程度、各種委員会、審議会等の会議終了後の懇談会が月二回程度であることなどに照らすと、これらの会議終了後の打合せ、懇談の会食代の公金支出については、その全部が社会通念上許される範囲を逸脱しているとまで評価することはできない。
しかしながら、右各会合のうち、第六号事件番号2、6、第九号事件番号4、9、10、13の2、20、22については、会議後の飲食を伴う懇談を終えた後の二次会、三次会であって、いずれも場所はスナックであり、これらは、いずれも私的な遊興を主な目的としたものと認めるのが相当である。
また、右各会合のうち、第九号事件番号1、13の1については、懇談会に先立って実施された会議に出席していない議員が複数加わっているうえ、その氏名も特定できないというものであって(弁論の全趣旨、被告の平成一〇年一〇月七日付準備書面の別紙参照)、場所がいずれもスナックであることに照らせば、主として私的な遊興を目的としたものと認めるのが相当である。
さらに、右各会合のうち、第九号事件番号13の3については、出席者が町議会議長と議会事務局長のみであり、第一七号事件番号2の3についても、右二名に議員一名を加えただけで、その場所がいずれもスナックであることに照らすと、被告の主張する開催目的は名目にすぎず、主として私的な遊興を目的としたものと認めざるを得ない。
そうすると、右指摘した各会合については、出席者や場所等に照らして、主として私的な遊興を目的としたものと認めざるを得ず、仮に、その場で町政の運営等についての議論に一部及ぶことがあったとしても、全体的にみて、これらの会合に要した飲食代を公金から支出することは、社会通念上許される範囲を逸脱し違法というべきである。
そして、右指摘した以外の右各会合の会食代については、社会通念上許される範囲を逸脱した違法なものとまで認めるには足りない。
(二) 議員研修会終了後の懇談の会食代(第六号事件番号1、5、九号事件番号2、5、15、19)について
前記認定のとおり、大西町では、愛媛県や越智郡主催の議員研修会終了後に、参加した町議会議長や議員らが飲食することが慣例化していたものであるが、右各会合のうち、第九号事件番号15については、研修に出席したとみられるほぼ全員の町議会議員らと町理事者側が出席しており、一人当たり六〇〇〇円程度という金額に照らすと、研修の成果を高め町理事者らとの共通意識を醸成するために懇談したという目的には一応の合理性が認められ、この会合に要した会食代を公金から支出したことをもって、社会通念上許される範囲を逸脱した違法なものとまで評価するには足りない。
しかしながら、その余の会合については、研修に参加した町議会議員の一部しか出席しておらず、これに町議会議長と町議会事務局職員が加わっただけで、場所もスナックが多く、被告が主張するような研修成果を高めるというよりは、主として私的な遊興や慰労を目的にした色彩が強いといわざるを得ず、これらの会合に要した飲食代を公金から支出することは、社会通念上許される範囲を逸脱し、違法というべきである。
(三) 議長会、議長会研修終了後の懇談の会食代(第九号事件番号12、13の4、第一七号事件番号1)について
右会食代のうち、第一七号事件番号1は、大西町が幹事となって開催した越智郡議長会終了後の懇談に要した飲食代金であり、大西町議会議長らの外、越智郡内町村議会議長九名が出席しているところ(証人鴨川忠弘、弁論の全趣旨)、議長会終了後に、他町村の議会議長らと意見交換や懇談をするため、幹事となった大西町が飲食物を供することは必ずしも不当とまではいえない。そして、右支出が一回にすぎず、金額も一人当たり五〇〇〇円にとどまっていることなどに照らすと、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでは認め難く、支出権限を有する被告の裁量の範囲内であるというべきであって、右公金支出を違法であると認めるには足りない。
しかしながら、右会合の後に実施された懇談の会食代(第九号事件番号13の4)については、他町村議長らとの飲食を伴う懇談を終えた後に、町議会議長、一部の議員、議会事務局長らだけで、私的に二次会の遊興をしたにすぎないというべきであり、これに対する公金支出は、大西町の事務処理費用とは認め難く、被告の裁量権を逸脱した違法なものというべきである。
また、第九号事件番号12の会食代については、出席者の人数からみて、議長会研修に出席した町議会議長が、研修終了後、一部の町議会議員を加えて酒食を伴う会合をもったものと認められ、場所がスナックであることに照らしても、主として私的な遊興を目的としたものといわざるを得ず、右会合に要した飲食代を公金から支出することは、社会通念上許される範囲を逸脱し、違法というべきである。
(四) 議長、副議長の昼食代(第一七号事件番号3)について
右昼食代は、町議会議長と副議長が入院中の町長を見舞った際に昼食をとった代金であることが認められ(証人鴨川忠弘、弁論の全趣旨)、見舞いの際に町政についての話合いがなされたにせよ、当日の昼食代を公金から支出すべき筋合いではなく、大西町の事務処理のための費用とはいえないから、これに対する公金支出は違法である。
(五) 行政推進懇談会の会食代(第九号事件番号11、7)について
前記認定のとおり、行政推進懇談会は、年一回、町議会議員、町幹部職員らが、これらの職の経験者を招いて飲食を伴う懇談会を開催し、町政についての意見を聴取する会合であるところ、その開催目的は、大西町の町政運営にとって有益な一面があるものと認められる。そして、右会合に要した会食代(第九号事件番号11)については、一人当たりの金額が約七五〇〇円(合計一八万一六八三円)であり、その開催も年一回にすぎないことに鑑みれば、社会通念上許される範囲を逸脱しているものとはいえず、公金からの支出は、被告の裁量権の範囲内といえるから違法であると断ずるには足りない。
しかしながら、右会合の後に実施された懇談の会食代(第九号事件番号7)については、町議会議長、一部の議員、議会事務局長らが出席しただけで、私的に二次会の遊興をしたにすぎないというべきであり、これに対する公金支出は、大西町の事務処理費用とは認め難く、被告の裁量権を逸脱した違法なものというべきである。
(六) 新年会終了後の懇談の会食代(第九号事件番号18)について
右会食代は、新年会後の二次会とみられるスナックにおける飲食代であって、出席者も町会議長と一部の議員と町当局者に限られており、到底、公務のための懇談とは認め難く、大西町の事務処理のための費用とはいえないから、これに対する公金支出は違法というべきである。
3 以上のとおりであって、別紙1の町議会議長、議員らの打合せ、懇談の会食代に対する公金の支出のうち、違法と認定されるものは、次のとおり、合計八七万六四六七円となる。
(一) 第六号事件
① 番号1 金額一一万六六〇〇円
支出先 レストラン笹
② 番号2 金額 六万〇七一一円
支出先 スナックベル
③ 番号5 金額 八万九五〇〇円
支出先 ナイトインジャンパトー
④ 番号6 金額 七万五九一〇円
支出先 プレイクラブベル
小計三四万二七二一円
(二) 第九号事件
① 番号1 金額 二万八〇〇〇円
支出先 スナックQ&A
② 番号2 金額 五万二一一八円
支出先 スナックベル
③ 番号4 金額 四万一五〇〇円
支出先 酒房やましな
④ 番号5 金額 三万七五〇〇円
支出先 ナイトロビーベティー
⑤ 番号7 金額 四万一二〇〇円
支出先 スナックベル
⑥ 番号9 金額 四万二三三三円
支出先 スナックベル
⑦ 番号10 金額 一万一九〇〇円
支出先 花みづき
⑧ 番号12 金額 三万二二二四円
支出先 スナックベル
⑨ 番号13の1金額 五万〇三〇〇円
支出先 スナック貴
⑩ 番号13の2金額 二万三三〇〇円
支出先 スナック貴
⑪ 番号13の3金額 三七〇〇円
支出先 スナック貴
⑫ 番号13の4金額 二万三二〇〇円
支出先 スナック貴
⑬ 番号18 金額 四万六五〇〇円
支出先 スナック貴
⑭ 番号19 金額 四万七三二一円
支出先 スナックベル
⑮ 番号20 金額 二万二五〇〇円
支出先 スナック貴
⑯ 番号22 金額 一万四八〇〇円
支出先 すなっく沙織
小計五一万八三九六円
(三) 第一七号事件
① 番号2の3金額 一万二〇〇〇円
支出先 スナック貴
② 番号3 金額 三三五〇円
支出先 うなぎや
小計 一万五三五〇円
4 そして、被告は、右違法と認定される公金支出について、支出命令権者として、出席者や会合の趣旨、場所等を確認することによって右公金支出の違法性を容易に認識できたというべきであるから、これらの支出命令を発したことにつき重大な過失があると認められる。
5 以上からして、被告は、右違法と認定される公金支出(合計金八七万六四六七円)について大西町に損害賠償する義務があるというべきである。
三 争点2(監査委員の昼食代、懇談の会食代(別紙2の第一五号事件)の支出命令の違法性)について
1 前記前提となる事実に加え、証拠(乙一〇、被告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 大西町の監査委員は二名で、月一回程度、監査事務を行っており、その昼食代として、町から一人当たり一〇三〇円(消費税込み)の弁当が提供されていた。
(二) また、監査委員により、毎年八月に二日間にわたり、決算に関する監査が行われていたが、その終了後、監査委員と町理事者らとの間で、意見交換と懇談の目的で飲食を伴う会合が持たれていた。
(三) 右各費用については、飲食店からの請求書を基に、被告が支出命令を発し、別紙2のとおり、総務費、監査委員費、食糧費の費目から公金が支出された。
2 ところで、監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査する職務を負っている(地方自治法一九九条一項)から、監査を受ける立場にある地方公共団体において、監査委員の右職務に不当な影響を与えると疑われるような利益提供をすることは許されず、その意味から、過度にわたる飲食物の提供を伴う接遇は厳に慎むべきであるといわなければならない。しかしながら、監査委員に対する監査の際の飲食物の提供を伴う接遇が一切許されないものではなく、その事務処理に随伴する接遇が、内容、回数、場所、金額等に照らし、社会通念上許される範囲を逸脱するとまではいえないものであれば、そのための公金支出をもって違法とまで評価することはできないというべきである。
そこで、以下、右のような観点から、別紙2の各支出の違法性について個別に検討する。
(一) 監査委員の昼食代(第一五号事件番号1ないし11)について
右昼食代は、監査委員一人当たり一〇三〇円の弁当代であり、その回数も月一回程度であって、社会通念上許される範囲を逸脱しているものとまではいえず、これに対する公金支出をもって、違法とまで評価することはできない。
(二) 監査委員との懇談の会食代(第一五号事件番号12)について
前記認定のとおり、右会食代は、年一回、二日間にわたり行われた決算に関する監査の終了後に、監査委員と監査事務局職員とが意見交換を含む懇談を目的として実施された会合の飲食代であり、その会合の目的には事務処理上からも一定の有益性が認められなくはない。そして、出席者が監査委員二名と町職員五名の合計七名で、支出額は一人当たり六〇〇〇円程度(合計四さ万二六四〇円)であり、年一回、決算の監査時のみに行われていることに照らすと、公費からの支出は決して望ましいこととはいえないが、これをもって社会通念上許される範囲を逸脱した違法な公金支出とまで評価するには足りないというべきである。
3 なお、原告は、右会食代等については、出席者の役職、氏名等、計算の根拠も明らかでなく、請求金額が総額で表示されている請求書のみに基づき支出命令を発しているから、大西町財務規則に反し違法である旨主張するが、右判示のとおり、右会食代等についての公金支出が違法であるとまで評価できず、仮に、その支出行為が大西町財務規則に反するものとしても、内部規律に関する違反にすぎないというべきである。
四 争点3(町長らのタクシーチケット代(別紙3の第一九号事件)の支出命令の違法性)について
1 前記前提となる事実に加え、証拠(乙五の2、3、六、一〇、証人桧垣正徳、同鴨川忠弘及び被告)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 大西町は、町長や町議会議長のための公用車を有しておらず、町長らの酒席を伴う各種会合への出席や来客があった際などの車での移動にはタクシーを利用することとされており、そのため、町長、助役、収入役、町議会議長、町議会事務局長の五名にタクシーチケットが配布されていた。これらの者は、自らタクシーチケットを使い、又は、必要と認められる場合に他の者にこれを交付していた。
(二) このように、タクシーチケットが利用された場合には、タクシー会社から大西町に請求があり、被告の支出命令により、総務費、一般管理費から自動車借上げ料として公金が支出されていたが、その際、利用者名や利用区間等が確認されることはなかった。
(三) なお、原告の監督請求に対する監査委員の報告では、タクシーチケットの利用について、利用年月日、乗車した者の氏名等を記録する措置を講じることが望ましいと指摘している。
2 ところで、町長らによるタクシーの利用は、公務上必要な車での移動のために認められるものであるから、タクシーチケット代については、公務上の目的で使用されたか否かをチェックする必要があり、公用のためとは認め難いタクシーチケット代に対する公金の支出は違法であるというべきである。
そして、右認定事実によれば、大西町においては、町長ら前記五名がタクシーチケットを所持しているところ、利用者名、利用区間等を確認することなく、タクシー会社からの請求に基づき公金が支出されており、公務とはいい難い私的な酒席への出席にもタクシーチケットが一部使用された疑いが持たれなくはない。しかしながら、別紙3のタクシーチケット代の各支出については、これらが公務以外の目的で利用されたことを認めるには足りる証拠はなく、これらについて被告がなした支出命令が違法であると認めるには足りない。
3 なお、原告は、右タクシーチケット代について、支出原因を明らかにした書類が添付されていないことから、大西町財務規則に反する違法なものである旨主張するが、前判示のとおり、内部規律に関する違反にすぎないというべきであり、これをもって、右代金の公費からの支出が違法であると認めるには足りない。
4 ただし、前記監査委員の報告においても、タクシーチケットの利用については利用年月日、乗車した者の氏名等を記録する措置を講じることが望ましいと指摘しているところであり、今後、タクシーチケット代の公金支出については、利用者、利用区間等を確認して、公務上の利用か否かをチェックする運用が講じられるべきであることを付言しておく。
第五 結論
以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、右違法と評価される公金支出についての損害賠償金八七万六四六七円及び内金三四万二七二一円に対する第六号事件の訴状送達の日の翌日である平成九年七月二〇日から、内金五一万八三九六円に対する第九号事件の訴状送達の日の翌日である平成九年八月二一日から、内金一万五三五〇円に対する第一七号事件の訴状送達の日の翌日である平成九年一〇月二九日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を大西町に対して支払うことを求める限度で理由があるから、これを認容し(なお、仮執行宣言については相当でないので、これを付さないこととする。)、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤武彦 裁判官熱田康明 裁判官島戸真)
別紙一〜三<省略>